How about "alternative curry"?その5(後編)・w/たんどーる塚本シェフ&南場四呂右さん

いつのまにか大晦日。

今年はand CURRYにとって、いろんなことがあった年でした。

滑り込みセーフかな・・・?

この記事を記念すべき2017年の最後の日に、アップします!


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and CURRYの目指す、オルタナティヴなカレーってどんなもの? 

紐解いていくために、カレーな人たちと対談をして、

 その内容を記載していきます。 

 たんどーる塚本シェフ&毎日カレー生活を10年以上続けている南場四呂右さんとの対談、

 後編です。 


 >>前編はこちら

 >>中編はこちら


この対談楽しかったなぁ(遠い目・・・)

▲対談の日に食べたスペシャルまかないカレー!!


ー新作カレーの着地点 

南場さん(以下な)>:色々足していって完成させる時、「これだ!」って思う瞬間はありますか?「これなら店に出せる」と思う時と、「あれ?」と思う時との違いとか。あとは、お蔵入りになっている話なんかありますか?俺が読者だったらすごく知りたい。  


ゆきな(以下ゆ)>:“鹿といちじくカレー”と、“鹿とりんごカレー”を同時に作って比べてみた事があるんです。でもどちらかと言えばりんごだけど、決め手に欠けるなって。その時に、バナナを入れてみたんですね。すると、さっぱりした甘みのりんごの時は(味が)平面的だったのが、こっくりした甘みのバナナを入れることによって奥深さや、味に立体感が出てきて。あっ、これいける!と思って着地させました。なので、お蔵入りになったのは鹿といちじくの方。 


な:なるほど。じゃあ感覚的に(味に)空白を感じると? 


ゆ:足りない物を考えて補ったり、あり過ぎる物を引いたり、という着地のさせ方ですね。塚本さんはどうですか?  


塚本さん(以下つ):沼袋時代は足してアレンジしていって、最終的になんとか着地させてたんだけど、もう1回作る時あれ?何入れたっけ?って面倒くさくなってやめたり。  


ゆ:メモはあるけど、わからなくなるんですよね笑。いつも作っている物は、季節や気温で塩気の感じ方が違って足すことはある。けれど、新しい物を作る時はどうですか?  


つ:んー、でも作って置いておくとまた変わっちゃうからね。 


ゆ:確かに。 


つ:提供する時はどうなんだろうとか、明日はどうなんだろうとか。その辺が分からないことは最初のうちあるよね。置いといた方がよい物と、そうでない物。 


ゆ:味が足りないなって思う時は?  


つ:あるけど、足せば何とかなるんだよね。今はしないけど、バターとか生クリームを足したり。ただ最近はあまり使いたくないなって思って、あまり新しい物作ってないな。でも今、ポークビンダルと向き合ってみようかなと。 


 ゆ:へぇ!食べてみたい! 


 な:うんうん!  


つ:沼袋の時は梅カレーが定番だったから酸味系はいいやって思ってたんだけど、ここにきて作ってもいいかなって。あと、ポークビンダルってちゃんと作ったことないんだよ、20年前にはなくって。メジャーになってきたのがここ10年位なのと、日本人がやってる店で出していることが多いから、働いていた店で見たことがない。 


ゆ:確かに。そもそもインド人は豚肉をあまり食べないし、日本人はポークカレーが好きなのもありますよね、きっと。 


な:うん、あると思う。日本人って酸っぱくて辛くて甘いのが大好き。マニアックな視点で言うと、作る側は酢を変えたり、肩ロースかバラ(肉)かとか、どれだけ火入れするかとかで差をすごく出せる。普通はワインビネガーや酢を使うんだろうけど、you tubeで“インド人が作る”みたいな動画を見ても全然使ってないし、ムットさん(*1)に「どうやって作るの?」って聞いたら「タマリンド使う」って。「全然ビンダルじゃないじゃん!」って笑。 


ゆ:タマリンド?! 


な:ははは。ゆきなさんがよく「(カレーは)自由だ」って言っているように、何でもありだって感じる。そしてそれに対して「ポークビンダルと言っていいのか」って言ってる人がいるのも面白い。 


ゆ:確かに、面白い。塚本さんがポークビンダルを、たんどーる風に作るとすると・・・  


つ:前から庶民的なカレーを作りくて、豚バラのスライスを使おうと思ってる。 


な:うわー!切り落とし。 


ゆ:あー!食べたい。酸味はどうしますか? 


つ:酸味はねぇ、黒酢かな。  


ゆ:おぉー!わたしもポークビンダルの時は使います。まろやかな酸味がよくて。 


な:なるほど。塚本さんが「庶民的なカレーを作りたい」って思ったのはなぜですか?  


つ:まず「豚バラのスライスで作りたい」って思って。それって高級感ないじゃん。  


ゆ:うんうん。「家でも真似したくなるようなカレーを作ろう」とか「おうちにある物で作ろう」とかを意識して作るんですか? 


つ:うん、(意識)してる。 


ゆ:それはなぜ? 


つ:「もっと身近に感じてもらえたら」って思ってるから。 


な・ゆ:あー!! 


ゆ:それはカレーを?それともインド料理を? 


つ:どっちもかな。 


ゆ:ルゥーのカレーだけじゃなくて、スパイスカレーを身近に、ですね。 


つ:それを言うと、もうちょっとスーパーに頑張ってほしいよね。  


ゆ:うんうん、大分置いているようになってきましたけどね。 


な:確かに、最寄りのスーパーでパクチーが売ってなくて、プランター(で育てている)ですよ。 


つ:俺、パクチーあんまり好きじゃないんだよね。 


ゆ:ははは。カルダモンにパクチー笑。  


な:でも急に共通点がでてきたじゃないですか!「身近に感じてもらいたい」って。 


ゆ:ね!! 


つ:カップルのお客さんが来た時に、(カレーを食べて)小声で「今度家でしてみようか」とか「大根入れてみようか」とかさ。 


な:うんうんうん。いやぁ、「身近に感じてほしい」って初めて聞いた笑。 



ーこれ(カレー)で生きていくんだ”


な:塚本さんの人柄を知らなくて、極端に言えば“ひねくれ者”を想像してる人ってすごくいると思うんですよ。食べたことのない人の中には「カレーに梅?!梅カレーなんて食べてみたいと思わない」っていう、損をしている人もいると思う。そこに対してこのSNS社会の中でどう発信していくのか、すごい興味がある。 


ゆ:うんうん。SNSは何を意識して発信されていますか? 


つ:毎日アップしてちょうだいって(言われてる。) 


な:あー、フィクサーがいるんだ笑。  


ゆ:わたし大阪出身なので、大阪の友達でインスタをフォローしてくれている人がいて。わたしのインスタを見て「東京に行ったら行きたいカレー屋がある」って言ってもらえるとすごい嬉しいです。以前札幌でスープカレーの食べ歩きをアップした時も、「今度札幌に行く時の参考にさせてもらうね」って聞くと、「よし!」って。自分が美味しいって思った所しか載せないと決めているので。 


つ:スープカレーってちゃんと食べたこと無いかも。 


ゆ:わたしもちゃんと食べたことが無かったです。「スープカレーねぇ・・・」みたいなイメージがあって。でも見方が180度変わりました。スープカレーは北海道の文化です。大阪の文化はスパイスカレー。あとは東京が何をやるか。東京は日本を代表するカレーを発信しないといけない。だからわたしは“オルタナティヴなカレー”。大阪のカレーって独自性があっていい。それとは違った東京ならではの独自性を出したい。お2人の思う“東京のカレー”とは?  


な:いやぁ、そうなるとやっぱり、“カレーライス”。ご飯で食べるカレー。 


ゆ:そうですよね。 


な:“究極のカレーライス”みたいな。外国人に向けたらそうだと思う。  


ゆ:しかも和素材って喜んでもらえそう。   


な:ゆきなさんのカレーってコンセプトがあるんですよね?“キャッチフレーズ”があるとか。 


ゆ:そうですね。「あ!こんなのがカレーなんだ」とか、「カレーに見えないのにカレーの味がする」とか、“発見”がand CURRYのテーマなんです。そしてカレー1つ1つにもコンセプトがある。今日持ってきたカレー(冒頭の写真参照)は「金時豆とポークの南インド風カレー」。以前イベントでやった物です。「金時豆を南インド風に!しかもポークで!」っていう、わたし的にはごちゃごちゃの“自由の集結”みたいなテーマです。それともう1つ「タラとたらこの親子カレー」を作りました。タラとたらこは本当の親子ではないけど、親子風にしたくて。たらこを“ポルサンボル”というスリランカのふりかけみたいな物にして、タラと一緒に合わせて食べてもらいます。これは「鶏の親子ではなくて、しかもカレーなんだ!」っていう驚きがテーマです。  


な:もう人気がでてきているからいいのかもしれないけど、「今のテーマをもっと言っていったらいいのに」っていつもすごい思う。 


ゆ:嬉しい。ありがとうございます!  


な:最近間借りの人が増えていますね。カレーが身近になっていて、カレーを提供するハードルが低くなってきている。 


つ:食べに行ってないからわからないけれど、あいがけが流行ってるよね。 


な:うんうん、マニアじゃなかったら全部同じに見えると思う。流行りについて何か感じていることはありますか?  


つ:「この人はどうしたいのか」って思う時はある。我流で趣味としてやるのか、本気でやっていきたいのか。 


ゆ:確かに。お店を出したい人ばかりじゃない。道があり過ぎて、外から見ている人に対してしっかり伝えないと理解されないですよね。南場さんはありますか?「現在のカレー界に感じていること」。 


な:自由だし誰が何をやってもいいとは思う。けど、(自分が)時々提供するようになって感じたことがあって。美味しいカレーを提供すること以外に、カレーで生活していく人は“これ(カレー)で生きていくんだ”っていう重みが全然違う。発信者となる人や、お店を出す人の“覚悟”は、「機会があるから出すだけ」の人とすごく差がある。 


ゆ:そうですよね。わたしも“カレーの惑星”というお店を週3回する経験をした後と、その前とでは全然違う。それまで月一の間借りでやっていたときはプラスマイナスゼロでお客さんが喜んでくれたらいいなって。でもカレーの惑星の時は、他の仕事をストップしている分をカレーで稼ぐってなると、1日1日が勝負になって。「わたしに依頼して良かったと思ってもらいたい。だからたくさんお客さんを呼びたいし、売上も達成したい。でもそれ以上に美味しいカレーは絶対出したい!」って、本当に勝負している気持ちだったから、これが毎日になるともっと違うんだろうなって思ってお店やってる人への尊敬がさらに増しました。 


つ:沼袋で18年やったけど、3年から5年で色々流れが変わってくる。お客さんも変わるし、結構区切りがあった。 


な・ゆ:へぇー! な:例えばどんな? 


つ:店を始めた時はホーム側だったんだけどすぐ改札ができて人の流れが変わったり。あとは雑誌やテレビの影響が大きかった。今雑誌に載ってもそんなにだけど。 


ゆ:たくさん出られているからですよ。わたしは初めて雑誌に載って信頼度が上がった気がしています。 


つ:“dancyu”に載った時は(撮影は)佐内さん(*2)? 


ゆ:はい!佐内さんに撮ってもらいました。  


つ:佐内さん沼袋に来たことあって。これ。(佐内正史さんの写真集『ラレー』が登場) 


ゆ:『ラレー』だ!見たかったんです。“ラーメンとカレー”。 佐内さんの写真はデジタルじゃなくて全部フィルムなんですよね。すごく素敵な方でした。撮影の時にお会いしたんですか? 


つ:いや、病気で倒れて復帰してこれ(写真集『ラレー』)もらった。写真は勝手に撮ってた。 


ゆ:わたしのカレーを食べて下さって第一声に「うん、初恋の味がする」っておっしゃってくださいました笑。 


な:へぇー! 


 ーこれからのカレー 


な:そろそろ締めるなら、(メモから)コレは聞きたいですね。“10年後の計画”。  


つ:10年後もカレー作れてたらいいな。 


な:それはもう!ぜひ! ゆ:お願いします!! 


つ:(メモから)“影響を受けた人物”は「森枝さん(*3)」 


ゆ:食文化研究家の方ですか? 


な:あー!ああ!  


つ:今でこそ渡辺さん(*4)、香取さん(*5)、水野君(*6)とか色んな人がスパイスカレーを紹介しているけど、たぶん森枝さんが第一人者。 


ゆ:へぇー! な:影響を受けたきっかけは?  


つ:当時は本なんてないから、森枝さんの本でカレーの歴史や、日本に伝わった経緯とか(学んだ)。沼袋にいた時森枝さんから電話がかかってきて、「今日行きたいんだけど。カレー大王です」って笑。 


な・ゆ:へぇー! 


な:確かに大王だね。(この本)1988年!すげぇな。森枝さん、62歳。  


ゆ:わたしは断然水野さんが火付け役です。水野さんはみんなの心にカレーの火をつけていく放火魔なんです笑。 


な:水野さんきっかけの人多いよね。 さて、それではゆきなさんの“10年後計画”で締めてもらいましょうか! 


ゆ:はい!わたし、普段仕事の時は逆算して物事を考えるんです。けど、カレーの活動は真逆でいきあたりばったりで。カレーには普段の考え方をあてはめずに、これからもこのままいきたいです。半年後とか近い将来を見据えつつ、新しい物を生み出す努力や行動を惜しまずに。あとはなるようになる!「“今”を大事にする」というアドラー心理学のように、カレーをやっていきたいと思います!お2人とも今日はありがとうございました!! 


<注釈>

*1 サバリ・ムットさん。インド料理屋「ムット」のオーナー。料理教室も開催している。

*2 写真家の佐内正史さん。くるりのアルバムジャケットなど、様々な作品を手がけられている。

*3 森枝卓士先生。食文化研究家。『カレーライスと日本人』著者。 

*4 渡辺玲さん。クッキングスタジオサザンスパイスのオーナーで料理研究家。インド料理の著書多数。

*5 香取薫さん。インド料理教室キッチンスタジオペイズリーの代表。インドの家庭料理を広める著書も多数ある。

*6 水野仁輔さん。カレースター。カレーの著書は40冊以上。


大先輩のたんどーる塚本さんと、

わたしのカレーを見つけてくださった南場さんと、

カレーについての濃ゆい話ができたこの対談。

たかがカレー、されどカレー。

この不思議で自由な食べ物は人を惹きつけて離さない。

来年も「カレー」に向き合って、まっすぐに作り続けていきたいなって、

改めてこの対談をなぞることで決心しました。